皆様からのお便り 『取水口の強敵』 福井嘉之様
私は1988年1月よりクラヤの試運転責任者として現地に着任した。所長は前建設部長の福井嘉之さん、副所長は白井淳さん。福井さんの体は真っ黒に日焼けし、昼休み時間は腕立て伏せをやって体を鍛えていた。
2007年10月発刊の「よもやま話」の原稿を整理していると紙面の都合で採用されなかった福井嘉之様の原稿が出てきた。ここに紹介す
る。 「牧浦記」
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取水口の強敵
故 福井嘉之(クラヤ現地所長)様
火力発電所の建設に当たっては、蒸気タービンの回転に使用した蒸気を凝縮してボイラに戻す為に、大量の冷却水を海から取水する必要があります。その水量は100万kW当たり毎秒約45立方メートルにもおよび、浦上川の洪水時の水量に匹敵します。
冷却水の取水設備の計画設計に先立って、発電所建設予定地の海の状況を出来るだけ綿密に調査しますが、途上国の僻地では情報の収集や調査に限界があり、運転を始めると予期せぬ数々のトラブルに悩まされました。

コロンビアのセレホン火力では、顧客側のコンサルタントが作っ
た取水設備の基本画に欠陥があった為に、代案を提出して最終的
には三菱の代案が採用されましたが、その技術的評価と価格調整
に手間取り、仮設の取水設備を作る事になりました。ところが、
海岸の付近の海底には、熱帯雨林から運ばれた大量の落ち葉が海
流に乗って限りなく供給されて居りました。仮設設備で運転を始
めた所、その落ち葉が大量の海水と一緒に吸い寄せられてスクリ
ーンの金網が目詰まりを起こし、発電が出来なく成りました。
長崎から送ってもらった魚網を海中に張って何とか解決出来たと思って
いたら、今度はえびの大群が押し寄せて、スクリーンが目詰まりを起こ
し、又もや発電停止を余儀なくされました。何しろ、えび茶色に変わっ
た幅200㍍、長さ600㍍の海水の塊が、取水口に向かって吸い寄せる様
は脅威です。
その海水をバケツで汲み上げて見ると一杯当たり100匹以上の車えびが
入っていました。腹いせにそのえびを唐揚げにして皆で食べましたが、
食べ過ぎてえびのアレルギーに悩まされました。海蛇の大群や、蟹の大量発生にも悩まされましたが、発電は続ける事が出来ました。

サウジアラビアのクライヤ火力では、クラゲの大群が押し寄せて、スク
リーンが役に立たない問題が起こりました。クラゲが大き過ぎて、ゴミ
掻揚げバーからこぼれ落ちる為に、スクリーンとしての機能が発揮出来
なく成った為です。付近の漁民の話では、その付近では大量のクラゲが
発生した事は無かったそうで、温排水による海水温度の上昇が、従来と
異なる環境に変化させた為と思われます。一日で掻き揚げるクラゲの量
がトラック何台分にもなりました。お陰で、クラゲの生態に就いて勉強
する機会を得ることが出来ました。
以上