皆様からのお便り「環境規制のための取組を考える」特別寄稿 堀俊明様(三菱重工マリンマシナリ㈱取締役社長)

 脱炭素化の動きは船舶・海洋分野にも間違いなく押し寄せておりますが、舶用機械を製造供給する三菱重工マリンマシナリ社
堀社長から今後の生き残りを掛けた取り組みについて投稿頂きました。市場でのゲームチェンジへの三菱重工グループ全体での
共同プロジェクトについてご一読願います。(伊藤)

「環境規制のための取組を考える」三菱重工マリンマシナリ㈱ 取締役社長 堀 俊明

 三菱重工マリンマシナリ㈱は、2013年10月に事業会社化し、長崎を主要拠点とし、世界の海へ安心・安全な舶用機械を
提供し続けています。
 近年、環境問題に関する積極的な取組が世界規模で展開され、地球環境を⼈類が⼀体となって守るという意識がかなり浸透
してきていると感じます。船舶・海洋分野では、EEDI(Energy Efficiency Design Index:新造船燃費性能規制)
及びEEXI(Energy Efficiency Existing Ship Index:現存船燃費性能規制)強化から、GHG(GreenHouse Gas:温室効果ガス)排出規制、ゼロエミッションへの取組と続き、燃料転換や環境対策技術・設備追設等の対策技術の適⽤のための研究・開発
が急ピッチで進められており、将来の推進システムや船内電⼒を含めたエネルギーマネージメントの検討や実証試験が加速されている状況です。

【注】EEDI、EEXIとも「1トンの貨物を1マイル運ぶ際に排出されるCO2量」で船舶のエネルギー効率を表す指標。自動車の燃費に相当。

 将来の⽅向性が変⾰するゲームチェンジの時は加速度的に近づいており、当社MMEも、新型コロナウィルスの影響はあります
が、Web会議等を駆使し、三菱重⼯グループ内外の環境対応技術を海運・造船分野にいかに適⽤して⾏くのか、国内外の関係先
と協議を進めている状況です。
 一方、長船所縁の三菱造船は、香焼工場の大島造船所への譲渡もあり、当面の新造船は下関の官公庁船やフェリー、立神の
艦艇に限られており、大型商船の建造予定がない中で、ゼロエミへ向けた事業構造転換を図っていることは、北村三菱造船社長
インタビュー(編集添付:4/26付日刊工業新聞)の通りです。
 このような中、当社は三菱造船と共通の市場・将来ビジョンを共有することから、両社の相異なる強みを活かすため、
「脱炭素化に向かう海事産業への新たなソリューションの創出と提供」を⽬的とした共同プロジェクトを立ち上げました。
 本年4月に発行された当社広報誌である「MEET NEWS19号」(添付スライドショー)では、上記プロジェクトをはじめ、
当社の取組状況を紹介させていただいております。また、EEXI対応技術や三菱重⼯グループ内のカーボンニュートラルへ向けた
取組みや最新のトピックスを掲載しておりますので、長機会の皆様方にもご査覧頂ければ幸いです。

【MEET NEWS 19号 2021年4月発行 12頁】 スライドショーで自動的に次頁に移動します。



インタビュー/三菱造船社長・北村徹氏 液化CO2運搬船実用化へ (2021/4/26 05:00)
                         (2021/4/26 付 日刊工業新聞より)
「脱炭素」で局面打開
三菱造船(横浜市西区、北村徹社長)が、二酸化炭素(CO2)の排出を低減する「脱炭素化」に基づく戦略で
厳しい局面を打開しようとしている。船舶に使われる重油の代替燃料を供給する装置を展開するとともに、液化
したCO2を貯留場所に運搬する新型船を実用化する。環境規制の強化に伴う新造船の需要を取り込むことが、
造船所の操業の維持にもつながる。北村社長に方針を聞いた。
  ― 新型コロナウイルス感染症の拡大などで受注環境が低迷しています。
「外航船(の市況)は厳しいものの、受注できない状況は抜け出している。日本の船価が割高だが、人民元高で
日本と中国の船価の差は縮まってきた。バラ積み運搬船が回復してきている。しかし、国内はコロナ禍で受注が
停滞している」
  ― 環境規制が需要に与える影響は。
「既存の船舶も2023年から規制強化に対応する必要があり、新造船の話も進むのではないか。船から排出
されるCO2回収への関心も高まっている」

 ― 船舶の燃料転換も見込まれています。
 「液化天然ガス(LNG)焚(だ)きエンジンに燃料のガスを供給する装置を提供している。アンモニアを燃料として供給する装置も三菱重工
マリンマシナリ(長崎市)と共同開発する。アンモニアの毒性が人体に影響しないようにすることが必要で、アイデアを持っている」
 ― 脱炭素化の動きが加速しています。
「液化CO2運搬船を開発している。陸上で排出されるCO2を回収し、液化して積み込み、(貯留場所などに)圧入するのに活用できる」
 ― 受注の確保が不可欠です。
 「長崎造船所本工場(長崎市)、下関造船所(山口県下関市)で官公庁船やフェリーに対応する。下関の操業を確保するとともに、本工場も
艦艇の建造を踏まえながら(商船の)仕事を入れていく」
 ― 設備投資の方針は。
 「下関は老朽化した設備を随時更新するが、大規模に投資するにはコロナ禍の影響と受注環境を見極める必要がある」

   【記者の目/環境規制による代替建造カギ】
 三菱重工業は長崎造船所香焼工場(長崎市)の新造船エリアを大島造船所(長崎県西海市)に譲渡する契約を結んだ。“造船ニッポン”を象徴する
拠点を手放すことで、大型貨物船などの連続建造は難しくなる。一方、三菱造船は船舶の環境負荷を低減する技術を軸に巻き返しを狙う。
環境規制による代替建造の受注もカギとなる。(孝志勇輔)