■お便り
このコーナーは新入会員の自己紹介の他、皆様からのお便りを掲載します。「私が今取り組んでいること」,「ちょっといい話」なんでも結構です。事務局にお寄せ下さい。
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〇増田 信行 様 New!
台湾に関するエピソードで約20年前に書かれたものです。台湾に行かれた方は親日的な雰囲気に思い当たる方も多いと思いますが、この話は暖かい現地の人との熱い触れ合いの想い出です。台湾には長船は台湾電力大林、林口、大譚GTCCのHRSG(排熱ボイラ)他多数のプラントを納入し、現在も林口に80万kWX3の火力発電所を鋭意建設中です。尚、三菱重工としては台湾新幹線他、他事業所の納入実績も沢山あります。(事務局)
台湾の老朋友(ラオポンユウ) 増田 信行
「しばらく来てないね。今度いつ来る、あした来る?」これは1年も台湾に行かないとかかってくる電話の老朋友の口癖である。
台湾の街を歩くのは面白い。雑然とした中でも活気がある。看板が林立していてその漢字を読むのは楽しい。牙科醤院(=歯科医院)など何回見ても頬がゆるむ。夜の街では屋台のような店先で生きた蛇や蛙なども売っており、頼めば料理してくれる。ただし食べたことはない。
私が初めて台湾に行ったのは十数年前のことであり、台南で3人の男と知り合った。林さん2人と阮さん(今は故人)である。林さんの2人からは大理石で作った三結義(桃園の誓い)の像を頂いた。
老朋友になったいきさつはこうである。当時の台湾ではブランデーで乾杯する。自分1人で杯を空けることはない。飲みたくなれば誰かと目を合はせ、合意の上で2人でまたは皆で乾杯する。しかも相手を酔いつぶさないと気が済まない。
初めて会った日の会食で、私は用心することにしていたが、私が酒に強いという情報を得ていた彼らは助っ人に数人の林さんを同席させていた。私が糖尿の気がありドクターストップを受けていると言うと、暫くして見たことのない妙な料理が出てくる。 「これは何だ」と聞くと「糖尿に効く漢方料理だ」では乾杯となる。血圧も高いのだと言うとまた変な料理が出てくる。「これは血圧に良いのだナ」と聞くとそうだと言ってまた乾杯になる。私も腹をくくり、午前O時を過ぎると私から乾杯を仕掛けた。そのうち相手は1人減り、2人減りして2人になってしまった。それ以来、老朋友としての付合いが始まったのである。
台湾に行けば必ず台南にも足を運び酒肴を共にする。台南の海鮮料理は美味しい。ある時は美人座餐廳の開店祝にも連れて行かれた。ここではカラオケも歌う。彼らのカラオケはナツメロ半分、そして軍歌が半分である。勿論日本の歌だ。自分達は本省人で台南には鄭成功の子孫が多いので半分日本人だ、女房は女学校卒だと自慢する。 3年前、鳥山頭ダムに行った。八田與一という日本人が作ったのだという。台南のすぐ近くだと言ったが、車で1時間程走ったところであった。
鳥山頭水庫の門を通りしばらくすると小高い丘の上の森の中に墓園があり、八田與一の銅像はすぐに目に入った。與一は作業ズボンに作業靴を履いて腰をおろして座っていた。長崎の製造現場で30年も作業服、作業ズボン、作業靴で仕事をしていた私には親しみのある姿であった。
右手を頭にかざし、遠くを見つめる姿は、苦労して作つた珊瑚潭を感慨深げに眺めているように思えた。 そのすぐ後方に墓があり、與一とその妻外代樹の名が並んで刻まれていた。墓に用意していた花を供え、與一の像と記念写真を撮った。近くには工事で活躍した日本製の10トン機関車も置いてある。
ダムに上ると珊瑚潭は満々と水をたたえて、名の通り珊瑚の形をして美しかった。夫と共に台湾の土になることを心に決めていた夫人が身を投げたという放水口からは勢いよく水が放出されており、その上にある展示室には鳥山頭の水利に関する説明資料があり、與一が金沢出身であることを知った。
私は日本統治時代の日本人の銅像や墓があるのに驚きを憶えると同時に感激もした、彼らがすぐ近くだと言って私を連れてきた理由も分った。彼らは自慢げであった。
翌日は台南にある奇美美術館に行った。休館日にも拘らず石榮堯氏に日本語での案内を頂いた。一級の美術品、楽器や名画などが数多く並んでいたが、驚いたことは5階に歴史上の人物であるシーザー、クレオパトラと台湾で著名な李登輝前総統、鄭南榕氏と並んで日本人の後藤新平、八田與一の胸像が陳列されていたことであった。
昨年、金沢に行った際、街中で出会い会話を交した十数人に尋ねた。「金沢出身で台湾で活躍した八田輿一という人を知っていますか。」「ハイ知っています。学校で習いました。」と答えたのは若い女性ただ1人であった。多分金沢の人であろう。
老朋友は、今では私に酒は余り飲むな、無理するなと言い、随意と言って杯をあげる。車の乗り降りや悪路では必ず手を貸してくれる。私が仕事で台湾に行くと、何も言わないのに露払いをしてくれる。
台湾における対日感情の良さは台湾に行く度に深く感じ、心が安まる。昔、反日家が一番多いのは日本だと耳にしたことがあるが、親日家が一番多いのは台湾であろうとつくづく思うのである。