皆様からのお便り 1


長船ニュース「航跡」  増田信行様       New!   

重工本社は来年、丸の内に移転する。
部屋はかなり狭くなるので、膨大な資料や書類、書籍などを早々と整理している。
過去に苦労した仕事、懐かしいデータや出張報告などを見ていると当時を思い出して捨てがたい気持ちになり、忽ち時間は過ぎてゆく。
しかし、自分には貴重な資料でも他人には紙屑に過ぎず、いずれ廃棄される運命にある。
その中に昭和60年9月2日の長船ニュースを見つけ、その一面の“航跡”の欄に私が上梓した「末永前社長をお偲びして」が載っていた。
8月14日に長船で35年に亘ってご活躍された末永聡一郎取締役相談役(前社長)がお亡くなりになられた。
9月1日の午後に所長から「長船ニュースの航跡欄に末永社長のことを書いてくれ」と電話があった。
この欄には既に「犬の心」と題してゲラ刷りも済ませていた私は、さっそく総務部広報の担当者に原稿の締切日を聞いたところ今日中にと言う。考える余裕もなく、「分った。今日中とは今日の午後12時迄だ。君は明日9時出勤の筈なのでそれ迄に届ければ良いな!!」と言ってOKを取った。
ゲラ刷りまで済ませていた私の原稿「犬の心」は33年の間、日の目を見ないまま今日まで来た。ここで長機会ホームページに載り、皆さんの目にとまったら幸いです。



昭和60(1985)年9月2日発行 長船ニュースより



記事に掲載したシンシナティ社フライス盤完成記念写真

            後列機械正面が末永工場長、一人置いて右が筆者


  ☟  当初掲載するはずだった原稿。今回初めて日の目を見たもの。

犬の心

我が家の庭の主人公は、飼犬ポメラニアンである。小さい時から屋外で飼っている。芝生の上を毎日元気よく走り廻っている。
 10年前、私も待望のマイホームを建てた。資金難のため、庭は石ころのままにしていたが、1年ほどたって、やっとの思いで植木数本と芝を
植え、何とか庭の格好をつけた。毎日丹精込めて育てたおかげで、夏になると青々とした立派な芝生が出来上がった。
 ところがである。毎夜、野良猫が来て遊んでゆくようになった。自分達のために作ってくれたと勘違いしたらしい。遊ぶだけなら良いが、ウンチ
をしてゆく。後片付けも大変だしせっかくの芝が黄色く枯れる。考えた末に犬を飼う事にした。猫は怖れて来なくなるだろうし、子供達の情操教育
にも役立つ。一石二鳥だとさっそく家族揃って買いに出かけた。
 気に入った犬はなかなか見つからない。たまたま犬屋さんとネゴ中に、生まれたばかりのポメラニアンが数匹、廊下の向うから出て来た。手の
ひらに乗る程の大きさで、何とも可愛らしい。子供達はすっかり気に入ってしまった。しかしポメラニアンは室内犬である。室内で飼っては猫は
追い払えない。
「本来、犬は自然に育てるのが一番良い。ポメラニアンは室内犬だが、上手に飼えば屋外でも育つ。」という犬屋さんの言葉に買ってしまった。
さあ大変!
 上手に飼えばと言っても初めての素人ばかりである。中学生の息子を責任者に任命し、本を買って来たり日誌をつけたり、皆で必死に世話をした。
 それから8年、人間で言えば既に中高年になるらしいが、病気一つせず立派に育った。
 かくして、我が家の一員となったポメラニアンは、今では私達の声も分れば足音も聞き分ける。私達も「ワン」という鳴き方一つで何を訴えて
いるか分るし、顔の表情すら読める。犬の心が分るのである。人間(ニンゲン)関係ならぬ人犬(ニンケン)関係が出来上がった。
 ひるがえって我々人間同志はどうだろう。会社では、意思の疎通や思想の統一はうまくいっているだろうか。我が家では、二十数年連れそって
来たウチのカミサンの気持ちがまだ分らない時がある。
 人間もワンと言っただけで心が通じ合うようにならないものだろうか。

第一工作部長 増田 信行

  

   当時、没となった原稿のゲラ刷り。

  愛犬ポメラニアン