皆様からのお便り 「フロリダでの想い出」  松永 巌様

        フロリダでの想い出     松永巌

 米国滞在中に友人となったフロリダに住むジャック・カンターと言う男から「君も来年には帰国と言っていたが、帰る前に
一度フロリダ(実際にはディズニー・ランドで有名なオーランドの近くのココア・ビーチ)に出て来いよ、友人のトム・ハイラー
と言う街の発明家も君に会いたいと言っているから」と予てから電話で言ってきていた。

 帰国の前の1980年8月ブラジルへ出張する用件が出来た。日本からブラジルに行くのは距離も費用も大変だが、アメリカ
からなら大した事ではないので、妻も一緒に行く事にした。往復ともマイアミを経由するので、帰路足を伸ばしてオーランドに
寄り、ココア・ビーチのジャックを訪ねる事にした。
 観光を兼ねて訪ねたマナウスを8月28日の夜出発し、翌朝5時5分マイアミに着き、乗り換えて8時20分オーランドに
着いた。

 空港でレンタカーをして、待合い場所のココア・ビーチのホリデーインに到着、少し早い中食を取り、ジャックと親しく
積もる話をした。米国人としては小柄で、歳は私と余り変わらないが髪が殆どなく、少々歳を取った様に見えたが、相変わらず
口は達者であった。

 食事が済んで、トムの会社「ロバック」を訪ねた。トムと女性秘書だけの小さな会社であった。トムの発明品を現場で見せて
貰ったが、残念ながら三菱重工で採り上げる程の物ではなかった。見学が終わって未だ日が高かったので、トムが暫く乗って
なかった自家用機に乗らないかと誘った。社則によるとヘリや特殊な乗物に乗るには会社の了解が必要なのだが、トムの説明
では高度も高く飛ぶし、ケネディ宇宙センターの上空も飛べると言うので、誘惑に負けて乗る事にした。
  トムが直接妻に聞いたら乗ると言うので、メリット・アイランドと言う自家用機専用の空港までトムの車に同乗した。
ジャックは他に用があるからと言って別れた。

 飛行場に着いてトムの飛行機を見た。中古を買ったと言って主翼の一か所に鳥が当たったのだと凹んだ所があったがまだ
新しく見えた。四人乗りと言う事で、私の想像して居たより大きかった。
 いざ乗る時にトムが妻に「本当に乗るか?」と確認をしていた。トムが操縦席、私と妻が並んで後ろの座席。出発!離陸!
トムが「高度を取って遠くまで行く」と言ってフロリダの両海岸線の解る程上空まで飛んだ。

 ケネディ宇宙センターと受信し「許可が出たので今から行く」と高度を下げて、センターを上空から見下ろした。発射台が
複数箇所あり、一箇所に見覚えあるスペースシャトルが発射体勢になっていたがトムは「現在の打ち上げ予定は無い」と
言っていた。
 
センターの在る場所は鰐の生息する沼や湿地であるが「鰐が見える位まで低空飛行する」と言い高度を急に下げた。
確かに鰐は確認出来たが、妻が気分が悪いと言い出した。激しい高度の変化によるものだと思われたが、トムは管制塔に連絡
「病人が出たので飛行計画を変更して緊急着陸する」と言って急いで着陸した。
 妻は暫く休んで、直ぐ回復したので、トムにホテルまで送って貰い、お礼を言って別れた。
  社則に多少違反はしたが、私としては滞在中の貴重な経験と想い出となった。