皆様からのお便り 「西九州新幹線乗車体験記」  緒続真人様


 11月12日に開催された総会に出席される途上、このほど開通した西九州新幹線を利用された体験記を投稿頂きました。
多分、長機会会員初体験だと思いますのでご一読ください。(伊藤)

   西九州新幹線乗車体験記  緒続真人様

1.概要
  2022年9月23日に開業した西九州新幹線に乗車する機会を得た。
 乗車日は、11月10日、開業から既に1か月以上経過はしているものの、まだ目新しい体験と思われるので皆さんに
 お伝えしておきたい。
  乗車地は西側始発駅の長崎、目的地は博多。今回開業したのは西九州新幹線のうち、途中の武雄温泉駅までの全長67㎞
 であり、実質的には部分開業のかたちとなる。
  このルートは飛び地にできた日本で一番短い独立した新幹線ともいえる異例のものである。
 従い、新幹線の基点となる博多に行くには、この武雄温泉で在来線の特急に乗り継がなければならない。
  そこで、武雄温泉駅での乗り継ぎは、同じホームの対面に当該特急列車が待ち受け、最短時間で済まされるようリレー方式
 なる乗継方法が採用されている。これにより、あたかも新幹線直行で博多に行ける体裁にしたのがミソである。

  これらのことを理解頂いたところで、話を乗車体験に移したい。
                            
2.いざ新幹線ホームへ
   乗車する新幹線は8時39分発の「かもめ12号」白い車体に赤を配した優雅で凛々しいデザインの車両は
 「西九州新幹線いよいよ開業!!」の話題と共にすっかり馴染み、脳裏にしっかり焼き付くものとなっていた。
  その姿を自身の手でカメラに収めるのも、今回乗車する目的の一つであり、このチャンスを逃さないようにと、
  発車予定時刻の1時間前には新幹線発着ホームに立っていた。
 そこには、到着したばかりの「かもめ」そしてこれから発車する予定の、なんと2列の「かもめ」が佇んでいたのだ。
  昂る気持ちを抑えながら、これらに向かって夢中でシャッターを切る。

 

 

【ホームに佇む2列の「かもめ」】
車体のベースは、JR東海が開発し、東海道及び
山陽新幹線の最新車両と同じN700S型、白地に
裾を赤くした2トーンカラーで、窓の下に細い帯
が添えられている。シンボルマークは、三つの輪
に飛行するカモメの姿を重ねたもので、見れば
見るほどひきつけられる。(このとき撮影した
写真は今月号の表紙にも掲載されている)

【注】(遠くて見ずらいが)電光掲示板に示され
る行先表示は「新鳥栖・博多方面」と記載あり。
まだ何も具体化されていない新鳥栖との接続
(=西九州新幹線の完成)を、ここではその願い
をこめて先取りしているのだろう。



3.乗車、そして発車
  乗車予定の「かもめ12号」は発車予定時刻の10分前にはホームに6両編成でその姿を現した。
 私は乗り込み、窓際に取った指定席の黄色の真新しいシートに身を沈めた。

  定刻を迎え「かもめ」はホームを滑るように静かに動き出す。車窓に宝町交差点付近までは景色をとらえられていたが、
 あとはトンネルまたトンネル。
  実に全路線の約60パーセントがトンネルというから、特急「かもめ」のときのような車窓に広がる景色に癒される事など
 望むべくもない。
  でも、乗り心地は揺れも、コトコト音も全く感じなることもなく(当たり前であるが)、まさに新幹線の乗り心地である。
 かくして諫早、新大村の各駅での停車を経て武雄温泉駅に到着。走行距離67キロ、24分の新幹線走行あっけなく終わった。

 

 

 

 【かもめの座席】

 指定席車内の座席は通路を挟んで2列づつ
 の配置となる

 

 

 

 

 

4.特急「リレーかもめ」に乗り換え目的地の博多へ
  武雄温泉駅のホームを降りると、同じホームの向かい側には、「特急リレーかもめ12号」の車体が、乗車ドアを開け、
 乗務員と共に待っている姿があった。乗客は一斉にホームを横切り、これに乗り込む。
  あっという間に乗客移動は完了し、乗換え予定時間の3分は、車椅子を使っていても十分な余裕だ。
 すべての荷物を携え、乗車後は、新たに指定した座席を探す煩わしさはあるが、贅沢はいえない。



 

【武雄温泉駅での乗継ぎの様子】
 左側ホームに到着した新幹線「かもめ」の乗客が
 右側に待ち受ける特急「リレーかもめ」に乗り移る
 所です




 

 

 

  乗り継いだ特急「リレーかもめ」は、新幹線「かもめ」の乗車直後でもあり、狭い車内、窮屈な座席、在来線特有の揺れなど
 つい比較してしまう。
  特急「リレーかもめ」は「始発の武雄温泉のあと、佐賀、新鳥栖、鳥栖そして終点が博多となる。佐賀で乗客がどっと増える
 ことも、特急「かもめ」のときと同じである。

  佐賀から博多まで所要時間はわずか35分。このことが佐賀は新幹線を必要としない大きな理由の一つでもある(後述)

  こうして今回開業した西九州新幹線と在来線特急を利用しての長崎から博多までの私の旅は終わった。
  所要時間約1時間20分、特急「かもめ」を利用していたときより約30分の時間短縮である。
  (今は仮の姿であり、これを評価するのは意味がないのだがー―、)

5.今後の課題と展望

  今回開業した路線は武雄温泉までの西九州新幹線の一部分にしかすぎない。新幹線・新鳥栖駅まで延長され、これと接続完了
  して西九州新幹線は完成となる。

  そのとき長崎は初めて全国すべての新幹線路線でつながりネットワークに組み込まれることになる。
  しかし、「未着工部分の早期着工・完成に向け、関係各機関は努力・協力していこう」というような単純な話ではないのだ。
  新鳥栖―武雄温泉間の地元である佐賀県は、そもそも新幹線の整備を求めていないというスタンスだ。これは、上述している
  ように博多―佐賀間は現状の在来線特急でも35分、新幹線を建設しても時間短縮効果は極めて少ない。

  しかるに、進めようとしている整備新幹線スキームでは地元自治体である佐賀県の建設費用負担が必要になる。
  このため同区間は単に「未着工」なのではなく、その費用をどこがどのように負担するのかという根本的なスキーム
 (整備方式)さえ決まっていないのである。
  さらに、ここに新幹線を通した場合は、並行する在来線のあり方も大きな課題となる。
  こうした幾多の困難を乗り越え、悲願の西九州新幹線の全線完成・開業を実現するには、そのメリットを享受することになる
  長崎県民の強い関心と実現に向けての熱量が重要である

   そのうえで、佐賀県の事情もよく理解し、政府と共に知恵を出し合えば、解決の道は必ず見いだせるものと信じる。以上