皆様からのお便り 「低炭素・脱炭素に向けたSOFCの取り組み」 小林 由則様

 三菱重工が持つ数少ない優位な技術力の一つで長崎工場で開発,製造されている燃料電池(SOFC)の担当されている小林由則様から
開発経緯について寄稿頂きました。12月号の長崎NOWでご紹介し、今まで断片的にお聞きの方も多いかと思いますが開発の経緯を
纏めて頂きましたのでご一読ください。(伊藤)

低炭素・脱炭素に向けたSOFC(Solid Oxide Fuel Cell)の取り組み    小林 由則

1.はじめに
 長機会の皆さま 、
 新年明けましておめでとうございます。令和3年の正月号に燃料電池を取り上げて頂けることとなり、最近の活動状況を中心
にご紹介させて頂きます。
 1983年に長崎で開発が開始されて以来、大勢の諸先輩方のご苦労とご尽力の賜物として、大切に生み育てられて来た燃料電池
が、低炭素に留まらず脱炭素が声高に叫ばれる昨今の社会情勢の中で、今まさに世界中で大きな期待を寄せられています。
 皆さま良くご承知の通り、地球温暖化抑制のためのCO2排出量削減と、現代社会に不可欠な電力の安定供給を両立して行く為
には、不安定な再生可能エネルギーを増やすだけではなく、低炭素の燃料を高効率に電力へ変換する分散電源を、質・量ともに
賢く組み合わせていくことが必要です。
 特に、業務用・産業用分野でのエネルギー消費が全体の60%を超えている我国のエネルギー構造においては、これまで国の
手厚い補助を受けて導入が進んだ家庭用燃料電池(エネファーム)や移動体用燃料電池(FCV:Fuel Cell Vehicle)以上に、
この分野への高効率な大型燃料電池SOFCの早期の普及促進が重要であることは言うまでもありません。
 そこで今回は、三菱重工業㈱・三菱日立パワーシステムズ㈱・三菱パワー㈱の長い歴史の中で、遅ればせながらも漸く
実用的なシステムとして世の中に認知されて来た、三菱長船の燃料電池システムの最近の状況についてご紹介させて頂きます。

2.システム構成(皆様良くご承知と思いますが、興味のある方へご参考まで)
2.1. 円筒形SOFCの構成
  発電システムのコアの製品であるセルスタックは、図1の様な円筒形のSOFCを採用しています。これは構造部材である基体
管の外表面に発電反応を行う薄膜素子(燃料極/電解質/空気極)を積層し、導電性のあるインターコネクタで隣接する発電素子
間を、長手方向に直列に接続したもので、1本当たりの電気出力は直流100W程度です。

 このセルスタックを束ねて数10kWの電気出力が得られるカートリッジを形成し、必要な電気容量に応じてカートリッジを
複数台まとめて圧力容器の中に入れることにより、モジュールを形成しています。これはこのような階層構造を取り入れる
ことで、据え付けやメンテナンス性まで考慮したシステムの冗長性を狙ったものです。また、カートリッジの数、あるいは
モジュールの数により電気出力を調整できるため、必要とされる幅広い電気出力に対応することが可能です。

2.2. システム系統
  SOFC発電システムの概略系統を図2に示します。これは、マイクロガスタービン(MGT)の上流にSOFCを組み合せた
システムであり、投入した燃料の化学エネルギーをSOFCとMGTの2段階でカスケード利用し、可能な限り電気エネルギーへ
変換することで、より高効率なSOFC発電システムを構築する為です。
 このSOFCは、MGT燃焼器上流の高圧部に設置され、約900℃の高温で作動することから、オールセラミックス製の堅牢な
構造体である円筒形SOFCを採用しています。なお、排ガス系統に排熱回収設備を設置することで、蒸気あるいは温水を
供給するコージェネレーションシステムとすることが可能です。

3.国立大学法人九州大学での実証初号機
 市場投入に向けたSOFC-MGTハイブリッド実証機のプロトタイプを九州大学の伊都キャンパスへ納入し、2015年から運転を
開始していますが、負荷変化試験、停止・ホット状態からの再起動試験等を実施するとともに、完全自動化のためのデータ等
商品性向上の為の様々な成果を上げています。現在に至るまで、台風、積雪、落雷、集中豪雨、大地震など幾多の自然災害を
経験しつつ、累積25,000時間の安定運転を記録しています(図3)。
  なお、本ユニットの実績を評価いただき、中身の技術に対しては日本機械学会賞(技術)を、また外観の先進性に対しては
グッドデザイン賞を受賞しており、国内外からの見学者も累積で40,000人を超える等、我が国の燃料電池全体にとっても
極めてシンボリックなユニットとなっています。


4.市場導入の状況
4.1. 三菱地所㈱向け
  まず、2019年2月に国内初の商用案件として、三菱地所株式会社が所有・運営する「丸の内ビルディング」向けに納入しま
した(図4)。
 丸の内ビルでは竣工15年が経過し、既設のコージェネレーションシステムの更新時期を迎え、「低炭素社会への貢献」、
「BCPの強化」を目指した計画がなされ、排熱利用よりも発電比率の高い本システムが合理的であるとのご判断から採用頂き
ました。発生した電力はビル内の自家消費に、蒸気は丸の内地域の冷暖房・給湯の一部に利用されています。商用ビルの
地下4階への設置ということもあり、搬入・据付工事等苦労する部分もありましたが、工事手法等含め貴重なノウハウを蓄積する
ことが出来ました。ユニットは安定運転を継続しており、コージェネ大賞理事長賞(技術開発部門)を受賞しています(図5)。

4.2. ㈱安藤ハザマ向け
  国内2件目の商用機は、2020年2月に株式会社安藤ハザマ向けに納入しました(図6)。本ユニットでは、将来の水素社会を
見据え再生可能エネルギー由来の水素活用を想定し、都市ガスと水素の切替運転が可能なシステムとなっています。
 本ユニットのほかに大型蓄電池、水素混焼可能ガスエンジンも導入されており、これらの機器を組み合わせた各種エネルギー
マネジメントの実証が行われており、SOFCは定格⇔50%負荷変動の繰り返し運用を毎日実施頂いています。



4.3. アサヒビール㈱向け
 国内3件目の商用機は、2020年10月にアサヒビール株式会社茨城工場に導入して頂きました(図7)。ビール工場の
排水処理工程で発生するバイオガス(メタンガス)を燃料とすることから、未利用の再生可能エネルギー源を有効活用して
発電することとなり、脱炭素社会の構築に資する新技術・新製品として大いに脚光を浴びています。

 

 5.おわりに
 今後も「低炭素」、「脱炭素」、「レジリエンス」(Resilience:適用力)といったキーワードに対して、実効性のある技術
としてSOFC発電システムを位置付け、現北川室長以下長崎と横浜のメンバーが全員一丸となって、着実に技術を完成させると
ともに早期の市場への浸透を図って行きたいと考えています。
  尚、この度会社のWebサイトに、「SOFCの開発ストーリー」と題するURLをリリースして頂きました。大先輩方の並々
ならぬご苦労とご尽力があってこその成果にも拘わらず、恰も私の物語の様に仕上げられてしまっております。大変恐れ多く
且つ恥ずかしくもありますが、何卒ご容赦の上でご笑覧ください。

  社内報{Global Arch2月号)に小林様の記事(動画もあります)がでてますので添付サイトをご参考ください。  

 SOFC開発ストーリー:    https://power.mhi.com/jp/stories/20200210

 

                                令和2年10月21日 小林 由則(著)

 【小林由則様 略歴】 1982年三菱重工入社
     2015年まで MHPS 燃料電池事業室長、2015年から2017年まで 東京大学 特任教授
     2016年から 九州大学 客員教授、2019年から 大阪大学 招聘教授
     現在 三菱パワー 技監・技師長