皆様からのお便り 『印象派クロード・モネへの思い』 川上雅民様

印象派クロード・モネへの思い

                                              川上雅民様
1.はじめに

2025年2月初め横浜に行く機会があり、上野の国立西洋美術館と京橋のアーティゾン美術館へ行きました。どちらも初めての訪問。
ちょうど国立西洋美術館では「モネ 睡蓮のとき」特別展が開催されていました。印象派、特にクロード・モネ好きの私としては、やった
と喜んだのも束の間、予約が必要でその日はどの時間帯も人数制限いっぱいで入れないと分かりがっかりしました。 

特別展は長蛇の列、これじゃ入れたとしてもゆっくり鑑
賞することすらできないだろうと思い、混雑をすり抜け
常設展示のチケット売り場へ、高齢者(65歳以上)はなん
と無料。常設展示館内は人も少なくゆっくりと鑑賞でき
ました。
常設も絵の展示数が半端ではない。思った以上に時間を
費やしました。二次元バーコードを読み込んで自分のス
マフォで絵の解説まで聞けるサービスもあり、それを丁
寧に説明してくれた学芸員さんのやさしさも加わり、感
動しました。都会は良い。



2.モネとの出逢い


クロード・モネに話を戻します。私とモネの絵との出会いは25年前、ロンドンテムズ川沿いにあるテート・モダン美術館の『睡蓮』でし
た。2m四方くらいのキャンバスに書かれた絵。何故かその絵が気になり、絵に近づいたり、離れたり、絵の前に設置されたベンチに腰掛
けたりして30分ほどじっと眺めていました。展示してある絵をこんなにゆっくり観たのは初めてのことでした。何がそこまで私を惹きつ
けたか。

『睡蓮』の絵は単に水面に浮く睡蓮と水草を描いたもの。遠くの景色を入れるでもなく、目の前の池、数十メータ四方を描いているのみ。
かといってその詳細を描写しているのではなく、言われないと分からないような睡蓮の花と葉がラフに描いてある。
何故惹きつけられるのか。それは、絵の中の空気感が伝わるから。水面の細波、湧き立つ靄、睡蓮の揺らめき、穏やかにさす陽の光。まる
でその場に立っているように感じます。風の肌感、匂い、音まで聞こえてきそうな思いになります。
一枚の絵でここまで表現できるのか。ある意味ショックでした。それからは好んでモネの絵を見るようになり、毎年のカレンダーも印象派
かモネの絵のものを購入しています。

3.ジョベルニーの家を訪ねて

退職前に会社から永年勤続40年でもらえる旅行券を足しにして、妻とフランス旅行に行きました。定番のツアーでしたが主目的はモネに
会うこと。モネの最後の居住地ジョベルニーの家や、モネの絵の題材となったルーアン大聖堂などがコースに含まれていました。
ジョベルニーにはモネが描いた『睡蓮』の池があります。綺麗に整備された美しい池です。


睡蓮の絵に登場する緑の太鼓橋もかかっています。時期が合わず、睡蓮の花は咲いていませんでした。絵の現場にこられたのだという満足
感はありました。しかし、何か違和感があります。何か物足りない。風や匂い、陽の光、水面に映る空や雲、睡蓮の花以外は全て揃ってい
ます。なんだろう。分かりますか。時代が違うのです。モネがいいなと感じた瞬間の空気や描いた世界が異なっているのです。現実が絵に
負けた瞬間でした。

4.晩年の作・睡蓮、オランジュリー美術館にて

ツアー自由時間に、パリのオルセー美術館とオランジュリー美術館に行ってきました。オランジュリー美術館にはモネの「睡蓮」の大装飾画が展示し
てあります。この美術館はこのモネの絵を飾るために温室を美術館に改造したものです。楕円形の展示室全面に『睡蓮』の池の絵が描かれています。
部屋の真ん中には大きなベンチが設置してあり、座ってじっくり見ることができます。そこに座ってゆっくりと時間を費やすと、それはまるで睡蓮の
池の中にいるような感覚になります。


絵画に関して私は、そんなに深入りはしておらず、どちらかと言うとど素人です。しかし美術館に行くことや、絵を見ることは昔から好きでした。

5.最後に、自分なりの鑑賞法

最後に話を国立西洋美術館にもどします。モネを見ようとあんなに人が美術館に並んでいましたが、美術館の中も混雑しているだろうし、人の波に押
されて、じっくり見ることもままならないのではないかと思います。日本の美術館は、展示室内にほとんどベンチやソファーの設置をしていません。
海外を参考にぜひ改善してもらいたいものです。時短のためには美術館では欲張らず、自分が気に入った絵にしぼり、作者の意図は何なのか、何を描
きたかったのか、分ならどう見るなど類推しながら見てみるのがいいかと思います。

クロード・モネ(1840~1926)の『睡蓮』の絵は日本人が最も好み、日本でも多くが所蔵されているようです。
『印象・日の出』(1872年)から『睡蓮』への変遷、彼の作品を観るごとに興味が強くなってきています。
ポーラ美術館にある『睡蓮の池』(太鼓橋のある睡蓮の池)(1899年)は色彩やタッチがはっきりし、モネが睡蓮のテーマを描き始めた早い時期のものと言われています。

仕事を辞め自由になる沢山の時間。各地のモネ『睡蓮』を訪ねて絵とともに彼の心の移ろいに向かい合っていきたい。最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。

                                   以上